日経地方創生フォーラム『~地方創生の基盤 全国高速鉄道幹線網の整備に向けた山形県の挑戦~
       奥羽新幹線の実現を見据えた福島~米沢間のトンネル整備』レポート

平成31年1月22日10:00~17:10、東京・大手町の日経ホールにて日経地方創生フォーラムが開催されました。

テーマ

官民連携と地域連携で実現する地方創生

プログラム

セッション1
 
地方都市再生の実現に向けて
セッション2
 
奥羽新幹線の実現を見据えた福島~米沢間のトンネル整備
~地方創生の基盤 全国高速鉄道幹線網の整備に向けた山形県の挑戦~
セッション3
 
企業版ふるさと納税で実現する地方創生
セッション4
 
地方創生と人材育成
セッション5
 
空港民営化、改革で加速する地方創生

山形県はセッション2の中で、2つの基調講演・パネルディスカッションを行いました。

基調講演①
『新しい時代を拓く福島~米沢間トンネル整備について』
山形県知事 吉村 美栄子 氏

吉村美栄子氏

まず初めに、吉村美栄子山形県知事が講演を行い、運休・遅延が多発している福島~米沢間のトンネル整備を訴えました。

「『山形には新幹線がある』と思われがちだが、実はこの山形新幹線は在来線。フル規格新幹線にはない大きな課題がある。
1つは速達性。山形以外の地域はフル規格新幹線の開業などで、東京との所要時間が大きく短縮されているのに対し、山形はたった1分の短縮で、山形新幹線はフル規格新幹線に大きく水をあけられている。また、快適性の面でも、乗り心地が良くないとの声があがっている。そして何と言っても最大の課題は、定時性・安定性。山形新幹線は1年間で274本、フル規格新幹線の30倍以上もの運休・遅延が発生している。

こうした中、JR東日本は、運休・遅延が多く発生する、奥羽山脈にまたがる福島~米沢間の抜本的な防災対策のための調査を実施。事業費約1,500億円(断面をフル規格サイズとする場合は1,620億)、工期15年の約23kmある短絡トンネルを整備することで安定性が向上し、災害リスクの完封、時間短縮などといった効果の期待が示された。このトンネル整備は非常に効果が大きいが、極めて大規模なプロジェクトなので、将来を見据えて戦略的に整備を進めるのが重要。

このスケールのトンネルをもう一度掘り直すのは非常に非効率で、不可能に近い。今のうちからフル規格新幹線を見据えたトンネルを整備し、奥羽新幹線の実現時に有効活用していく。こういう発想が必要不可欠。

新しい時代を拓く福島~米沢間トンネル整備について

このトンネル整備の意味は、長年の課題である山形新幹線のボトルネックの解消。運休・遅延の約4割である福島~米沢間でのトンネル整備は、そのボトルネックが抜本的に解消される画期的なもの。さらにこのトンネルをフル規格新幹線を見据えて整備することが、その先につながる新しい時代を拓く鍵になるものとなり、「未来への扉」を言えるのではないか。

また、奥羽・羽越新幹線の実現により、インバウンドなどの観光交流が拡大していき、リダンダンシーの確保や国土強靭化にもつながっていく。トンネルを整備し、そして奥羽新幹線をネットワークとして整備することで、その恩恵・効果は全国に広がっていくものと考えている。」

基調講演②
『逆境の整備新幹線計画を克服した鹿児島の知恵と努力
─板谷トンネルのフル規格化を念頭に─』
芝浦工業大学工学部土木工学科教授 岩倉 成志 氏

岩倉成志氏

続いては、芝浦大学の教授を務める岩倉氏が登壇。
鹿児島県を例に、新幹線の整備実現について以下の通り講演を行いました。

「まず日本の整備新幹線の経緯について。1972年に基本計画路線が提示されだが、1982年には国鉄の財政再建の問題があり、計画が凍結。その後、1987年にJRが発足し凍結解除となった。そしてその後、優先着工区間と難工事着工を決めていくが、当初、4番目の順位だった鹿児島~八代間が、高崎~長野を除くと一番最初に開業しているのだ。九州は『いつ着工されるか不明』とされていたが、故・小里貞利衆議院議員が『難工事区間の緊急挿入の画策』と銘打ち、早期実現につなげた。上越新幹線での工期延長の例など、過去にあった事例を勉強され、先にトンネルを作っておくことが非常に大事だと訴えられた。また、鹿児島・九州新幹線のみならず、他の北陸新幹線や東北新幹線のトンネルについても難工事区間として、優先着工順位に先駆け難工事の同時着工を進めたという。プロジェクトの難点と、日本全体のバランスをきちんと考えることが大事なポイントである。」

「もう1つは鹿児島の例。整備新幹線計画の凍結が解除された直後に、地元独自に駅整備を決意。新幹線整備の確約が取れない中、幅広い自由通路などの整備を地元負担で進めていった。駅周辺の整備が、結果的に市民の意識向上につながったという。これらの事例をもとに、奥羽新幹線の整備に向けて、2つのシナリオがあると考えている。

逆境の整備新幹線計画を克服した鹿児島の知恵と努力─板谷トンネルのフル規格化を念頭に─

1つは、福島~米沢間のトンネルを前倒しして整備していくということ。これには自治体の方々の非常に強い意志、覚悟が必要になる。もう1つは、板谷峠の難工事トンネルとしての位置づけを目指すということ。秋田までつながる新幹線を整備計画路線として格上げするような努力が必要である。」

「山形新幹線の遅延が、東北新幹線の遅延にもつながってしまうというところが非常に大きな問題のポイント。国として、この山形新幹線の投資をサポートしていかなければいけない。『時間信頼性』の研究をしていく必要がある。」

パネルディスカッション
『~地方創生の基盤 全国高速鉄道幹線網の整備に向けた山形県の挑戦~
奥羽新幹線の実現を見据えた福島~米澤間のトンネル整備』

パネリスト

・山形県知事 吉村 美栄子 氏
・山形市長 佐藤 孝弘 氏
・米沢市長 中川 勝 氏
・やまがた女将会 会長 川崎 禮子 氏
・新庄青年会議所 副理事長 橋本 一馬 氏

コーディネーター

岩倉 成志 氏

最後に行われたパネルディスカッションでは、整備新幹線の実現に向けた具体的方策について、様々な議論が交わされました。

岩倉氏

「まず、各地域においてこのトンネルの必要性・期待について伺いたい。」

吉村氏

吉村氏

「首都圏との安定輸送性が飛躍的に向上し、ビジネスや観光の際の移動における不安が一気に解消される。さらに、このトンネルが福島・山形・秋田の3つの県都を結び、東北の太平洋側と日本海側をつなぐ奥羽新幹線の整備、そして国土強靭化や地方創生の実現につながっていくものと考えている。」

佐藤氏

佐藤氏

「新幹線の整備されてきた地域が発展しているという状況を見れば、地方創生のためにこの新幹線は極めて重要。今、地方創生の裏にある地域間競争は当然必要だが、平等な競争条件の整備が必要。そういう観点からも、しっかり整備を進めていきたい。」

中川氏

中川氏

「『地方創生』を進める上で重要な課題となってくるのが、公共交通網の整備であろう。福島~米沢間は、本線の中で一番標高の高い山間部を通るため、環境に左右される難所区間。それを解決するトンネル整備を実現するために、置賜地域一丸となって取り組んでいきたい。」

川﨑氏

川﨑氏

「山形は、美しい景色や季節を感じられ、観光の面で非常に魅力的な県。蔵王温泉では個人のインバウンド客が全体の80%を超えているが、新幹線が止まってしまうと困惑している。ご自宅にお帰りになるまで責任をもって、安全・安心な新幹線に乗られて、楽しくお過ごしいただけるのが希望である。まずは新幹線をきちんと整備し、運休や遅延がないよう期待したい。」

橋本氏

橋本氏

「福島~米沢間のトンネルが実現し、山形新幹線全体の利便性が向上することで、進学や就職の選択肢が増え、交流人口の増加も見込める。また、災害に強い国土の整備という観点からも、太平洋側交通網に代替する奥羽・羽越新幹線の交通の整備は必要。東北全体でバランスの取れたインフラ整備や広域でのネットワークの構築が重要だと考えている。」

岩倉氏

「続いては、トンネル整備に向けた具体的な取り組みについて伺いたい。」

吉村氏

「現在、JR東日本と山形県とで、費用対効果や経済波及効果の分析を進めており、同時に、事業スキームについても検討中。今後は有識者も交え、検討を一層加速していきたい。また、全県的な推進組織と県内4地域の推進組織が連携し、若者などの積極的な運動参加も促しながら、県民の理解促進や、機運情勢に向けた取り組みを進めている。また、トンネルでつながる福島県との連携も深めながら、運動を盛り上げていきたい。
このトンネル整備を、東北の地方創生実現に向けての大きなチャンスと捉え、早期事業化、そして奥羽新幹線の早期実現につなげていきたい。」

橋本氏

「昨年、県内17のの青年会議所で、奥羽・羽越新幹線のフル規格化を含めた交通インフラ整備についての署名活動を行い、6万弱の要望の声を国土交通省に直接お届けした。今年度はこの取り組みを東北全体へ拡大していきたい。」

中川氏

「米沢市は単独でフル規格新幹線構想の期成同盟会を立ち上げ、昨年12月には置賜3市5町に同盟会を拡大。奥羽新幹線の整備のみならず、米沢~福島間のトンネル整備促進にも取り組んできた。また、福島市長ともお会いし、互いに取り組んでいく旨で同意頂いている。今後は経済界や商工会議所も巻き込みながら、地域全体で取り組んでいきたい。」

佐藤氏

「昨年1月に山形圏域で同盟会を結び、要望活動や、若者を巻き込んだ地域ミーティング、あるいは講演会などを実施してきた。山形市が中核市に以降するということをきっかけに、全エリアの自治体が取り組める方向性を模索していく。この交通整備は、インバウンド客が増えているいまの状況で、日本全体の活力につなげるために非常に大切。県都の市長としてしっかり取り組んでいく。」

岩倉氏

「最後に、吉村知事から全体を含めたお話を頂戴できればと思います。」

吉村氏

「山形県は自然豊かで美食美酒が魅力だが、交通高速網がまだまだ不足している。高速道路の整備率は徐々に上がっているのに対し、フル規格新幹線はまったく整備されておらず、基本計画のまま。太平洋側と日本海側、両方整備すべきである。東日本大震災時には日本海側が協力した。逆も全く同じで、互いに協力し合わなければならない。フル規格新幹線で全国をつなげることが、日本の将来の観光立国につながっていくため、国民が声を上げていくことが大事。『地方創生』はハード面をしっかり整備してこそ、ソフトにつながっていくと実感している。皆さんに応援していただき、私どもも大いに声を上げて活動していきたい。」

岩倉氏

「知事のお話のとおり、交通を整備していくことが『地方創生』にとって大切。輸送量・信頼性の高い新幹線で東京からのお客様を囲い、そこから高速道路や一般道に集散させていく『モーダルコネクト』が、これから目指すべき交通の姿である。そのためにも、この板谷トンネルをフル規格で造ることが大事である。このトンネル整備は、東日本全体に大きな効果をもたらすということを皆様にご理解いただきたい。」

日経地方創生フォーラム

当日、400名が参加した日経地方創生フォーラムを通じて、山形県は東日本の発展の為に奥羽新幹線整備実現が欠かせないこと、また、その第一段階として福島~米沢間のトンネル整備が極めて重要であることを内外に強くアピールしました。

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